志賀高原

'09 夏　志賀高原湖沼巡り　

イバイチの
旅のつれづれ

　平成21年8月末、土日の高速道路料金1,000円の制度を利用して志賀草津道路をドライブし、初秋の景観を楽しもうと出掛けた。平成20年12月に北関東自動車道と東北自動車道の間がつながったので水戸市からは常磐道水戸ＩＣから東北自動車道佐野藤岡ＩＣまでと北関東自動車道太田桐生ＩＣから上信越道須坂長野東ＩＣまでと2回利用するので2,000円になる。正規料金は6,800円なので4,800円の割引になる。

小布施
　朝６時に水戸を出て１１時前に須坂長野東ＩＣを降り、道の駅「オアシスおぶせ」で早めに昼食の信州そばを食べる。小布施は何回か訪問しているので定番である北斎館などは見ずに中島千波館のある「おぶせミュージアム」に直行した。中島千波が描く桜などの花の絵は何時見ても心が洗われるような気がするからである。ちょうど「小布施音楽祭」の期間ということで、それをＰＲする街角コンサートが行われていて、その一つとしておぶせミュージアム入口で3人の女性がアイーダの行進曲やカルメンのハバネラなどを演奏していた。中島千波館では企画展として池田学という作家が左図にある銀河鉄道のように気が遠くなるような細かい絵を、紙にペンだけで丹念に描いている細密画の展示が行われていた。

志賀高原総合会館
　おぶせミュージアムから湯田中を経由して志賀高原総合会館のある蓮池までは車でおよそ40分の道程である。小布施では晴れていたが志賀高原への曲がりくねった急勾配の坂道を登る頃からガスがかかり始めてきた。急坂の途中に落差が107ｍで日本第7位だという澗満滝が見える展望台があるというので見に行ったがすっかりガスに覆われて若山牧水の紀行文が彫り込まれている碑を読んだだけで戻ってきた。
　蓮池は志賀高原の中心地である。長野オリンピックの時に道路が整備され一部立体交差になっている。長野オリンピックの時志賀高原ではアルペンの大回転と回転を東館山と焼額山の両スキー場で行った。
　この両スキー場は蓮池から向って左手の一の瀬・奥志賀方面にあり、渋峠・草津方面に行く向って右手の志賀高原草津道路とここで分岐するのである。
　この蓮池付近には志賀高原総合会館があり、その中に総合案内所やオリンピック･パラリンピック記念館があり、情報収集や長野オリンピックのことを知るのに良い場所である。毎年8月最後の土日には蓮池前の広場で志賀高原大蛇祭りミス志賀高原コンテストが行われるが、ちょうどその前夜祭の日に遭遇して大勢人が集まり賑やかだった。夜は花火大会があるという。

一沼・琵琶池
　志賀高原での宿は入口近くのサンバレー幕岩温泉である。付近一帯はスイスのグリンデルワイドを思い起こさせるしゃれた建物が並んでいる。湯田中方面から上がって来る旧草津街道沿いに、道しるべのように峠の三十三観音と呼ばれる観音像が置かれていてハイキングコースになっている。幕岩温泉手前にその最後になる三十二番と三十三番の観音像が素朴な姿で安置されていた。

　幕岩温泉の近くに「一沼」という小沼がある。志賀高原で最初に出会う沼ということで名付けられたそうで水面にはひつじぐさが白い可憐な花を咲かせている。沼面は時折ガスが覆い隠し、今回の旅が眺望は望めず湖沼めぐりがメインになる予感を抱かせる。
（写真は一沼とひつじぐさの花）

　「一沼」から整備された遊歩道を、案内の標識に従って行くと志賀高原で二番目の大きな沼である「琵琶池」に出る。この辺りは標高1,400ｍの高度がある。琵琶池を一周して蓮池まで歩くコースは舗装された遊歩道が続き、「サンシャイントレール」という遊歩コースになっている。

丸池
 　「琵琶池」から国道292号線（志賀草津道路）を蓮池方面に上っていくと途中に「丸池」がある。小さな円形の沼だが湖畔にある丸池観光ホテルには遠い昔（55年前）の思い出がある。以前勤務していた会社に入社したばかりの頃、同期入社の友人とゴールデンウイークを利用して志賀高原から草津まで歩いた時のことである。
　ちょうど昼時でボートを借りて丸池を横断しホテルの対岸で持参した握り飯を食べた。交代でボートに乗り丸池観光ホテルをバックに写した写真が残っているので今でも思い出せるのだが、その日は熊の湯泊りに決めてあったので景色を眺めながらのんびり話をしていた。そしてその時、勤務していた会社の社員証を落してしまったのである。(写真は現在の丸池と５５年前の丸池）
　迂闊にもそれに気付かず連休後の勤務に入った数日後、見知らぬ人から封書が届いた。開けてみたら自分の社員証が入っていて、同封の手紙には丸池の畔で拾ったが、困っているのではないかと思い送ったと書いてあった。社員証には会社の住所も記載されていたので送ってもらえたのである。
　その時になってはじめて落としたのに気付いて慌てると同時に見知らぬ人の親切さが身に沁み、丁重な礼状と共に水戸名物の「水戸の梅」という菓子をお送りした。それ以来草津温泉や草津白根には何回か訪れたが、志賀高原までは足が延ばせず、実に55年ぶりの再訪なのである。思い返すと昔の人は、落とした人が困っているのではないかと相手を思い遣る気持ちがあり、それを具体的な行為で示してくれたので、最近の世相と対比して昔は良かったと思わざるを得ないのである。

蓮池
 　それはさておき、丸池から前日に立寄った蓮池に行く。蓮池はその名の通り一面の蓮で沼の半分近くが覆われている。名残の睡蓮の花がまだいくつか咲いていた。
　此処から左折するとスキー場の多い焼額山から奥志賀方面で発哺温泉がある。昔は志賀高原の温泉は熊の湯と発哺温泉しか無く、どちらかの温泉に泊るのが楽しみだった。

　沼の前にある広場では午前中だったせいもあり、大蛇祭りのメインイベントであるミスコンテストはまだ行われず地元の人たちの踊りや、舞台での前座の獅子舞のようなものが行われていた。大蛇祭りとは志賀高原の守り神として高原の最奥にありまた最大の大きさのある大沼池に住んでいる大蛇が、黒姫というこの地の権力者の娘に恋したが、計略によって殺されそうになったため、志賀高原中の池を決壊させ洪水を起こし人馬や田畑を流した。黒姫はそれを悲しんで大沼池に身を投げて洪水を止めさせたという伝説に因んで、毎年８月末の土日に大蛇の仮装が志賀高原中を練り歩くお祭りである。

志賀高原自然教育園・長池
　蓮池から志賀草津高原ルート（国道２９２号線）を少し行くと信州大学志賀高原自然教育園入口のバス停がある。坂道を上っていくと研究施設本館の隣に資料館があり、高原に住む動物の剥製や、高原に咲く花の写真などが展示されている。
　戸外にはロックガーデンがあり、あきのきりんそう，やまははこ，ごぜんたちばななどの秋の花が咲き、また実を結んでいる。下手には細長い長池がガスの中に見え隠れしている。
（写真は上が、みやまとりかぶと、やまははこ、しらやまぎく、下が、みやましぐれの実、ごぜんたちばなの実、長池の一部）

田ノ原湿原・木戸池
　自然教育園と国道を挟んで長野県天然記念物に指定されている田ノ原湿原がある。昔、志賀湖という大きな湖があったが、そこに植物が繁茂し湿原になった所である。広い湿原には木道が敷かれていて植物を保護している。
此処の標高は1,600mあり水芭蕉，わたすげなどが咲くそうだが、今は花の季節は終わりに近づき、えぞりんどう，うめばちそうなどが僅かに咲いているだけで間もなく草紅葉の季節になる。

（写真はえぞりんどう、あきのきりんそう、うめばちそう）

　田ノ原湿原の先に木戸池がある。8月の終わりになるともうシーズンオフで人影は殆どなく静寂そのものである。初秋の志賀草津高原ルートの池めぐりも此処までである。
　次に志賀高原が活気を取り戻すのは12月中旬からのスキーシーズンになってからだが、池巡り周辺の賑わいはゴールデンウイークまで待たねばならない。

横手山
草津への高原道路は更に熊の湯、硯川を経て「のぞき」へと続く。此処で一瞬ガスが薄れ、上部の横手山頂と先ほど通過した熊の湯方面の風景が眺められた。そのまま晴れたら素晴らしい景観が見える筈だが、また直ぐガスがかかり見えなくなる。５５年前の５月に来た時は良い天気に恵まれ、この「のぞき」から積った雪を踏み固めた小道をたどって横手山頂まで登ったのを思い出す。
（写真はのぞきの手前から見た横手山とのぞきから見た熊の湯方面）

道は更に高度を上げ日本の国道の最高地点である標高2,172mの渋峠に続く。長野と群馬の県境でもある。折角だからと渋峠から横手山頂に向うロマンスリフトに乗る。山頂は晴れていたが、周囲にはガスが垂れ込めていて草津白根、笠が岳など周囲の山並みの眺望は殆ど望めない。
（写真は山頂の標識とやなぎらん、つりがねにんじん）

　道路沿いにやなぎらん、やまははこ、つりがねにんじんなどの花が咲いているが、リフトや休憩所などが広い高原状の山頂に立ち並んでいて標高２３０５ｍ横手山山頂の標識が無ければ山頂にいる感じがしない。日本一高い所のパン屋さんというのも此処にある。少し休んで同じリフトで渋峠に戻る。「日本国道最高地点到達証明」というのを１００円で購入できるというので数種類ある中から芳が平がバックにあるものを買った。渋峠を過ぎ群馬県に入ると直ぐ濃いガスに包まれ、１０メートル先しか見えない道路が草津まで続いていた。
　５５年前の昭和３０年５月のゴールデンウイークは晴天で湯田中から志賀高原、雪の中の横手山、渋峠、山田峠、白根火山を経て草津まで徒歩で縦走したのである。
（写真は日本一高い所のパン屋さん、最高地点証明書、５５年前に撮った白根山と芳が平）
　(H21-8-29～8-30訪)