松代1

上州富岡から信州松代へ (１) 　富岡市　

イバイチの
旅のつれづれ

上州富岡

　平成２２年７月中旬に上州富岡から信州松代への旅をした。当初の計画では、上信越国立公園の池の平湿原に行くつもりだったが、梅雨末期の雨が激し、く予定を変更したのである。

　茨城県水戸南ＩＣを６時に出発し、北関東自動車道から長野道に入り、富岡ＩＣに９時に着く。富岡では世界遺産暫定リストに記載されたという国史跡、国重要文化財の指定を受けている富岡製糸場と、上州一之宮である貫前(ぬきさき)神社の国重要文化財指定の社殿及び妙義神社の上毛の日光と言われる見事な彫刻があるという同じく国重要文化財の社殿を見る予定である。

富岡製糸場

　まず富岡製糸場に行く。案内標識はよく整っていて迷うことなく旧富岡製糸場入口に着く。観光ボランティアの人たちが３０分ごとに説明をしながら内部を案内してくれる。この製糸場は明治維新直後の明治５年に明治政府により建設された当時世界でも最大規模の繰糸場を持つ生糸の製造工場で、主要な建物は建設時のままで現在まで残っている。

　入口正面には長さ１０４ｍある２階建ての木骨レンガ造りの東繭倉庫が建っている。「木骨レンガ造」とは木材の骨組みの間にレンガを積み並べる工法だそうで、レンガはフランドル積みと言って長い方と短い方を互い違いに組み立ててあり、綺麗な断面を見せている。この倉庫の２階に乾燥した繭を貯蔵したのである。同じ長さの西繭倉庫がずっと奥に建てられている。
　東繭倉庫の先からコの字に折れ曲がって長さ１４０ｍの繰糸（そうし）場が西繭倉庫まで続いている。繰糸場には創業時の明治５年にフランス製の繰糸器３００台を輸入し設置されていた。現在は昭和６２年に操業停止した時の繰糸器がそのまま並べられていて見学できるようになっている。

　他にも現在管理事務所として使われている検査人館、建設指導者のブリューナが居住していたブリューナ館、女工館などの明治５,６年に建てられた建物が重要文化財指定になっている。また鉄水槽という貯水槽は明治８年の設置で国産の鉄構造物では最古のものだそうである。
　繰糸器が発明される前は繰糸は人手による座繰りという方法で行われていた。繭から糸の端末を引き出し、人が糸車を回す方法なので生産性は悪く、少量しか作れない。富岡製糸場ではその作業を実演し、希望者にはそれを実体験することが出来るようになっている。繭から細い糸を引き出し、それが柔らかな絹糸になっていく過程は感動ものである。（写真は座繰りの実演と自動繰糸機の前にある写真展示）

一之宮貫前（ぬきさき）神社

 　富岡製糸場から妙義山方面に車で５分ほど走ると、大きな鳥居があり、それを潜って丘を登ると立派な貫前（ぬきさき）神社総門がある。総門を潜ると参道は石段を下っていく構造で、正面の大鳥居の石段を上がり、総門から下がっ所に社殿がある「下り宮」と呼ばれる形態で珍しいものである。比叡山の根本中堂に似ていると感じた。

　石段を降り切ったところに朱塗りの楼門と拝殿がある。その奥にある本殿は、今年はじめから平成の大修理と称して白いシートに覆われ、見る事は出来ない。神社の周辺にもホームページにも何時修理が終わるのか記しておらず、遠来の訪問者には不親切だと思った。
　この神社の創建は安閑天皇の元年(531)と伝えられ、１５００年近い昔からある古社である。平安時代の「続日本後紀」や「延喜式」にも記載されていて、上野の国の一之宮である。本殿・拝殿・楼門は寛永12年（1635）3代将軍徳川家光の再建によるもので国の重要文化財に指定されている。

　この神社は１２年ごとに仮殿を建て神が遷座する遷宮祭を行っている。未年の１２月１２日の深夜、暗闇の中を御神体を納めた御羽車(おはぐるま)を本殿から仮殿に遷す「仮殿遷座祭」を行い、翌酉年の３月１３日に「本殿遷座祭」を行って本殿に戻す神事で、本殿ではその間に清掃補修を行って綺麗になった本殿に神を迎え入れるというのである。

　昔は３０年ごとに伊勢神宮のように社殿を作り直していたそうである。仮殿には社殿を保護する真御柱（しんのみはしら）という神の依り代(よりしろ：神霊を宿す物)が立てられる。これは諏訪大社の御柱と同じ役目の神聖な御柱である。遷宮祭当日は火消しの行列や梯子乗りなどが行われるということである。総門の西側には広い仮殿建設用地があり、その道路側には大きなスジダイの木が枝を広げて涼しい木陰を作っていた。

妙義神社

　妙義山を擁する群馬県甘楽郡妙義町は平成６年３月に富岡市と合併して富岡市妙義町になった。富岡市の観光案内を調べていたら妙義神社が大きく取り上げられていたので立ち寄ることにした。妙義山には何回か行ったが、妙義山神社にはもう２０年以上前に枝垂れ桜を見に行って以来の訪問である。観光協会の案内マップには貫前神社から車で２０分だということで割に近いのである。

　妙義神社は妙義山の主峰、白雲山の中腹に位置し、創建は宣化天皇２年（567）である。本社（本殿・弊殿・拝殿）は上毛の日光と言われるほど見事な彫刻があり、柱の金箔の龍や、羽目板壁の鳳凰は素晴らしく、また関東平野を展望できる借景庭園としても有名であり、春はしだれ桜、秋は紅葉の絶景がつくり出されるということで国指定重要文化財である。(写真は富岡市観光情報サイトから転載）

　「道の駅みょうぎ」に車を置き、境内に通じる急坂を登る。枝垂れ桜がかぶさる石段を上ると高さ１２mの鮮やかな朱色に塗られた総門がある。これも国指定の重要文化財である。更に石段を上がると右手に旧本社と伝えられる波己曽（はこそ）社がある。そのまま前方の急な石段を上がると唐門　（国指定重要文化財）と本社があるのだが、その石段の前には綱が張られ通行禁止の立て札が置かれていて、観光ボランティアの人が写真を持って椅子に腰掛けていた。(写真は総門）

　近づくと平成19年9月の台風9号の大雨により本殿の裏山が崩れ見学できないと言う。平成21年度に治山工事は完了したが、まだ文化財の修復工事を行っているのだそうである。文化財修復工事が何時完了するのかは未定であり、その説明をするために居るのだということで、本社（本殿・弊殿・拝殿）、唐門の写真をいろいろ見せてくれた。

　折角来たのに残念だったが、わざわざボランティアの人を置いて説明してくれていることに納得し、仮の本社としてある波己曽社（はこそしゃ）に参拝した。妙義神社は以前は波己曽神社という名前だったそうで、本殿・幣殿・拝殿がある。現在の社殿は３００年以上前に建てられ、県の重要文化財に指定されている。

妙義ふるさと美術館

 　「道の駅みょうぎ」から車で少し坂を上がると「富岡市立妙義ふるさと美術館」がある。入場料は一般３００円、６５才以上１５０円である。この美術館は昭和58年から「妙義山を描く絵画展」を開催し、毎年の大賞などの入賞作品を展示している。モデルになった妙義山を直に眺めながらの絵画鑑賞という試みは、全国的にも珍しく、自然と芸術を同時に楽しめる施設として好評を得ている。今日の天気は悪く｢大｣の字が臨める白雲山やその先にある金洞山の妙義山塊は雲の中に見え隠れしていた。

（H22-7-11訪）