富良野から十勝へ (4)  富良野  イバイチの
旅のつれづれ


富良野

 翌朝、白金温泉から十勝岳温泉を経由し十勝岳ラベンダーロードを上富良野町に下る。山はガスがかかっていてすぐには晴れる様子もないので、間近に十勝岳を見るのは諦めた。前日の旭岳と言い今日の十勝岳と言い、山は朝晴れて午後曇るという常識から外れている。

 まずラベンダー発祥の地と言われる日の出公園に近い後藤純男美術館を訪れる。後藤純男は院展で活躍している日本美術院の中心的日本画家で、奈良・京都などの日本の古都の風物や中国の自然そして北海道の自然などを雄渾な筆致で描く作品が多く、観る人に強烈な印象を残す画家である。

 この美術館増築記念に十勝岳連峰を描いた高さ1.8m、 幅6.3mの作品は圧倒的な迫力で迫ってくる。美術館の前方には(まだ山頂部分は雲の中だったが)十勝岳連峰が、また後方には芦別岳山麓の富良野の風景が広く見渡せる素晴らしい場所である。
 (写真は美術館後方の景色)

 次に道道581号線を西に行き、千望峠パーキングに行く。ここはガイドブックにもあまり載っていないと言われるだけあって観光客は来ていなかった。眼下には富良野市街地が一望のもとに広がり、その先には丁度雲が取れてきた十勝岳連峰の雄大な景観が広がりまさに千里一望の眺めである。

 千望峠パーキングを少し戻り、道道851号線を南下する。この道は「パノラマロード江花」と言い広々とした景色を眺めながら進む。またこの道はジェットコースターの道と言われアップダウンの多い真っ直ぐな道が続いている。


   次に「彩香の里」に行く。ラベンダーのシーズンは込み合うらしいがシーズンを外れた今は、観光客は一人もいない。斜面に造られた花畑は、ラベンダー畑が全体の半分を占めるが、有料のラベンダーのシーズンが終わった秋は、その上方には赤・青・白のサルビア、マリーゴールドなどの花が植えられているのが無料で開放されている。

 華やかに彩られた花の間をのんびり歩いた。眼下には富良野の田園風景が広がり、その先には十勝連峰の山並みが続いている。花に囲まれた園地に腰を下し、遥かに続く素晴らしい景観を存分に眺めていると、生きている幸せをしみじみと感じる。


 花巡りの締めくくりは「ファーム富田」である。「ラベンダーの富良野」を全国的に広めたのはこの農場であるので素通りするわけにはいかない。広い駐車場は空きがあったが人はたくさん来ていた。ここの名物であるラベンダーソフトを食べる。ほのかにラベンダーの香りがした。ここもラベンダーはすっかり無くなって秋の草花がたくさん咲いていた。ここも秋は無料である。

 ここの花畑はいろいろな種類の花が咲いていて綺麗なのだが、ここなら当たり前だと思われてしまうのが大きな農場の宿命かもしれない。
 「彩香の里」で素晴らしい眺めだと感動したシーンより、「ファーム富田」の方が規模や種類も充実しレイアウトもスマートなのだが何か物足りない感じがするのは期待が大きすぎるからだろうか。

  「美瑛」 というと思い浮かぶ人物は前田真三だが、「富良野」 という場合の代表的人物は倉本聰だろう。テレビドラマの 「北の国から」 は、昭和56年(1981)から平成14年 (2002)の21年間にわたって放映されたがその原作・脚本はすべて倉本聰の作品である。また緒形拳の最後の出演作として話題になったテレビドラマ 「風のガーデン」(平成20年放映)の原作・脚本も倉本聰が手掛けている。

 その 「北の国から」 の初期のロケ地が「麓郷の森」 として残されている。田中邦衛扮するところの 「黒板五郎」 が 、「純」 (吉岡秀隆)と「蛍」(中嶋朋子)の協力を得て自力で建てたが、その後テレビでは火事で丸焼けになってしまう丸太小屋と、その後建てて風力発電を試みた風車の家がある。

 丸太小屋の近くに「森のレストラン」がある。野外の木々の下の席でそよ風に吹かれ、丸太小屋を眺めながらのコーヒーとチーズケーキはとても美味く、思わず長居をしてしまった。麓郷地区には他にも石の家などの「北の国から」のロケ地が点在し、ロケ地巡りのコースがあるほどである。

 今日の宿は富良野ニュープリンスホテルである。倉本聰はこのプリンスホテルズ&リゾーツを経営する西武グループの総帥だった堤義明とは小中学の同窓であり、また親友でもあった。その縁もあって富良野ニュープリンスホテルの敷地内にあった富良野ゴルフ場移転の跡地利用にかかわり、その一部を緑の多いガーデンに造営している途中に、ここをロケ地にしたテレビドラマを思いついて制作したのが「風のガーデン」である。
 倉本聰は他にもこのホテルの「ニングルテラス」という敷地内にログハウスが点在し、それぞれオリジナル商品を販売する場所の設立にもかかわっている。

 富良野ニュープリンスホテルのフロントでも 「記念旅行おめでとうございます」 と言われ、13階建ての11階にある富良野市街や十勝連峰が良く見える部屋に通され、戸惑うほどである。夕食は久し振りの和食懐石だった。前の2日が朝夕ともバイキングで慌しく落着かなかった気分だったが、今夜はゆっくりのんびり夜景を眺めながら食べられた。

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