今年（令和２年）２月はじめに、友人のKさんからＭＭＴを提唱している三橋貴明氏の動画の紹介があった。表題は「ＭＭＴポリティックス～現代貨幣理論と日本経済」というもので令和元年５月に、YouTubeで発表されたものである。
　ＭＭＴとはModern Monetary Theoryの略で、現代貨幣理論と訳されており、ケインズ経済学の流れにあるものと言われている。

　三橋氏はＭＭＴの特徴について
　①自国通貨を持つ政府は財政的な予定制約に直面することは無い＝日本円建ての国債しか発行していないので、日本政府が財政破綻することは無い。
　②すべての経済は生産と需要について実物的あるいは環境的な限界がある＝政府におカネの制約が無くても供給能力（経済力）の不足によるインフレ率が限界になる。
　③政府の赤字はその他の経済主体の黒字である＝政府の赤字は民間などの黒字である。
と述べている。
　つまり赤字国債をいくら発行してもそれだけではインフレにはならず、またその分どこかが黒字になって相殺されているということで、日本は平成の３０年間は財政赤字を減らすためにデフレ政策をとって来たが、それではじり貧になるばかりであり、インフレ政策をとって国の競争力を上げるべきだと言っている。
　実際に１９９５年～２０１５年までのＧＤＰ成長率は日本が最下位で、しかも日本だけが－２０％の赤字になっているというグラフを見せられた。

　この辺りは以前アップした「『平成経済衰退の本質』を読んで」で紹介したのと同じであるが、その後の対処法が大きく違っているので、MMTについてよく調べてみようと思い、MMTの最良の教科書という触れ込みの中野剛志という評論家の「奇跡の経済教室」（全２巻）という本を購入することにした。

top↑:

　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　奇跡の経済教室【基礎知識編】　中野　剛志

　　　　　　　㈱ベストセラーズ　　２０１９年４月発売

　この本は【基礎知識編】と【戦略編】の２冊あるうちの上巻にあたる本で、内容は平成に日本経済が成長しなくなった理由はデフレ下であるのに、インフレ政策をとっているためだという。
　インフレとは需要より供給が不足することにより発生し、反対にデフレは供給が需要を上回っていることにより発生するので、政府としては需要を喚起し、労働者に賃金を上げて購買力を増やし、税金を減らして輸出をを増やしていく政策が必要なのに、実際には法人税を減らして消費税を上げ、公共投資を削減し、非正規従業員を減らして賃金を抑制するような施策ばかりやっているため、日本のGDPは世界最下位になってしまったという。
　その理由として大幅な財政赤字による過去に発生したハイパーインフレの恐怖があるが、赤字国債については自国通貨建ての国債である限り、赤字の増加は民間貯蓄の増加で相殺されるので心配ないという三橋氏の論法と同じで、今まで言われていたこととは違い、民間貯蓄があるから赤字国債が発行できるのではなく、赤字国債を発行するから民間貯蓄が増えるというのである。

　著者の中野　剛志という人は東大卒業後通産省に入省。、エディンバラ大学院に留学し、政治思想を専攻して博士号を取得した人物で、この本では「経済の基礎知識をマスターしよう」ということで経済の在り方を解説し、なぜ日本は財政赤字を増やしてもハイパーインフレにならないのかというMMTの考え方を説明し、それがなぜ受け入れられないのかを説明し、納得できる内容になっている。

top↑:

　　奇跡の経済教室【戦略編】　中野　剛志

　　　　　　　㈱ベストセラーズ　　２０１９年７月発売

　この本は【戦略編】と名付けられているが、【基礎知識編】で述べていることを繰り返し述べているところが多い。その中で国の成長戦略には二つのタイプがあり、一つは賃金の上昇により、経済成長を実現しようという「賃金主導型」成長戦略(「アメ型」成長戦略）と企業の利潤の増加により経済成長を実現しようとする成長戦略（「ムチ型」成長戦略）があることを説明してくれる。
　賃金上昇という壁を打ち破るためは高付加価値のある製品を生み出すために企業は積極的に研究開発投資を行い、イノベーションを起こして高付加価値製品を生み出し、利益を拡大していく好循環によって国民経済は成長を続けて行くのが「アメ型」成長戦略である。

　しかし日本は平成年間には「ムチ型」成長戦略で経済成長率が悪化する戦略をとってしまったのである。その辺の悪化要因やPFI法による民間資金の活用による公共施設活用の促進の失敗などデフレ政策による失政などが縷々述べられて居り、納得できることが多い。
　現在は世界中がグローバル化という方向に向かっているが、それを脱却して財政支出を拡大し、デフレを脱却し緊縮財政から積極財政に移行する必要があると述べている。

　この２冊の本を読んでみて、日本のGDPが世界最下位であり、しかもマイナス成長であるという実情とその原因、デフレ脱却のためのMMＴの考え方が理解できた。
　またネットやＹｏｕＴｕｂｕなどにはこの考え方の解説などがたくさん見受けられ、世間の関心の高さが感じられた。
　
　　しかしこのMMTの考え方は、従来の常識を大きく揺るがすものであり、　多くの経済学者の反論も掲載され論評されている。しかし大幅な財政赤字を抱え、ここ２０年施策が失敗であったと数字で示されている日本政府にとっては魅力的な論説である。

　２月１９日の朝日新聞にも首相官邸で安部首相が浜田内閣官房参与と面談し、ＭＭＴの説明を受けたが慎重な姿勢だったとの記事が掲載されていた。アメリカをはじめ、自国第一主義が増加している世界経済の中で、今後の日本政府の施策にも変化が出るのかもしれない。

　
（写真をクリックすると大きくなります）

(この項終り）

top↑:

　　　　　　　　　　　　