啄木記念館

'12 盛岡・北三陸紀行 (2) 石川啄木記念館

イバイチの
旅のつれづれ

　盛岡・三陸海岸北部紀行
　　　（平成２４年９月２日～９月５日）

　　　　盛岡（泊）―旧渋民村―宮古浄土ヶ浜―
　　　　休暇村陸中宮古（泊）―北山崎―
　　　　龍泉洞温泉（泊）―龍泉洞―盛岡
　　　　　　（観光バス、レンタカーで）
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３．石川啄木記念館付近

 　翌朝、盛岡駅レンタカーからトヨタヴィッツを３日間１３,０００円で借り、旧渋民村（現盛岡市玉川区渋民）の石川啄木記念館に行く。盛岡駅から国道４号線を車で３０分ほど北上した距離である。石川啄木記念館は昭和４５年に開館したが、その後啄木生誕１００年を記念して昭和６１年に現在の新館がオープンした。すぐ近くには啄木が２才から少年時代を過ごした宝徳寺がある。(写真は石川啄木記念館正面と入口近くにある「東海の小島の磯の---」の歌、啄木夫妻）

　啄木は１８８６年（明治１９年）に親が住職をしていた常光寺で生まれ「一（はじめ）」と名付けられた。翌年父が渋民村の宝徳寺住職に転任したので一家も移住した。盛岡中学（現盛岡一高）時代は盛岡市内に下宿していたらしいが、この時生涯の親友となる四才年上の金田一京助や妻となる堀合節子とも知り合った。しかし文学に傾倒して欠席が多く学業も低下して落第になりそうになったため１９０２年（明治３５年）に自主退学して上京した。東京では与謝野鉄幹・晶子夫妻の知遇を得たが、就職がうまくいかず病気にもなって半年ほどで故郷の宝徳寺に帰った。(写真は宝徳寺正面と解説板）

　その２年後詩集出版のために再び上京したがその間父親が宗費滞納で宝徳寺を退去することになり、前日観光バスの車窓から見た啄木新婚の家で妻節子と両親、妹と５人の生活することになった。この時啄木は１９才である。一家の扶養を負うことになった啄木は渋民村に戻り、渋民小学校に代用教員として勤務することになった。この間長女が生まれるなど落ち着いた生活だったが、１年後にストライキ騒ぎで退職し親交のあった友人を頼って函館に向かった。啄木２０才の時である。(写真は旧渋民小学校と斎藤家の遠景)

　当時の渋民小学校の校舎と間借りした斎藤家の建物が啄木記念館の敷地内に移築されている。その前には「啄木と子供たち」像や平成１９年に新井満の筆による「ときとしてあらん限りの声を出し　唱歌をうたふ子をほめてみる」の歌碑が置かれ、また斎藤家の建物の前に妻節子の歌碑が置かれている。新井満は「千の風になって」の作曲家として有名だが、啄木組曲として啄木の短歌に「ふるさとの山に向ひて」という作曲をしている。(写真は「啄木と子供たち」像、旧渋民小学校と新井満筆の歌碑、旧小学校の案内板、斎藤家と節子の句碑、斎藤家の案内板）

　記念館からは岩木山が良く見えるが相変わらず山頂は雲に隠れていた。記念館の裏の小高い場所に旧館が建っているが閉ざされたままである。その前に大きな啄木歌碑がある。「さわやかな　小春日和の　姫神山　薄霞して　いともやさしく」と記してある。また与謝野鉄幹・晶子が啄木を偲んだ歌碑がある。「いつしかと　心の上に跡形も　あたずなるべき　人と思はず　晶子」「古びたる　国禁の書にはさまれて　日付のあらぬ　啄木の文　寛」と刻まれている。(写真は岩木山、「さわやかな---」の歌碑、鉄幹と晶子の歌碑）

　９月の初めというのに気温３０℃もある真夏の気候の中、歩くのは辛く、車の乗って２～３分の所にある渋民公園に行く。ここには地元の青年たちにより建てられた大きな歌碑がある。啄木の没後１０年に啄木の第一号歌碑として建てられたそうである。「やはらかに　柳あをめる　きたかみの岸邊目に見ゆ　泣けとごとくに　啄木」と刻まれている。想像では北上川のゆったりした流れの岸辺に建っているのかと思っていたのだが、北上川が木々の間から少し見下ろせる台地にあり、岩木山の大きな山容の方が似つかわしい場所だった。ここでも岩木山はその秀麗な全貌を現さなかった。公園から坂道を下って行くと鶴飼橋という吊橋がかかる北上川がある。渋民村から盛岡や青森に行くにはこの橋を渡り好摩駅から汽車に乗ったそうである。(写真は｢やはらかに‐‐‐｣の歌碑、歌碑と岩手山、鶴飼橋と北上川）

４．その後の啄木

　ところで渋民村を去った啄木は遠く北海道の函館に渡った。函館では小学校の代用教員や函館日日新聞の記者などしたが、３カ月後の８月に２千人以上の死者を出した函館大火があり、９月に札幌に移り更に小樽に移って小樽日報の記者になった。しかし１２月にはそこも退社し、釧路の新聞社に勤務するなど道内を漂泊する生活が続いたのである。

　しかし４ヶ月滞在した函館の生活は啄木にとって忘れがたいものであり、函館山の近くに墓地を定めるほどだった。また函館山がよく見える大森浜の海岸は啄木がよく散策した場所で現在は啄木小公園がある。ここには啄木のブロンズ像があり、その台座には「潮かほる　北の浜辺の　砂山の　かの浜薔薇(はまなす)よ　今年も咲けるや」と刻まれている。(写真は啄木像）

　隣には啄木浪漫館所属の「砂山の　砂に腹這い　初恋のいたみを　遠くおもい出づる日」の歌碑が建っている。この歌は「初恋」という題で、越谷辰之助という人が曲を付けた歌曲にもなっている。「砂山の砂に　砂に腹這い　初恋の痛みを　遠く思い出ずる日　初恋の痛みを　遠く遠く　ああ　思い出ずる日　----」というもので、若いころ愛唱したものである。(写真は｢砂山の---」の歌碑）

　啄木は東京での創作活動への憧れが募り、釧路の新聞社を３ヶ月で退職した。北海道での放浪生活は２年間で終わりを告げ、１９０８年(明治４１年)４月に東京に出た。啄木２２才の時である。この時から、その頃東京にいた親友の金田一京助に金銭を含む様々な援助をして貰っている。啄木はやがて朝日新聞社の校正係に採用され夏目漱石とも知り合った。

　啄木の第１歌集「一握の砂」を出版したのは２４才の時である。短歌を３行分けにした斬新なスタイルは、俵万智の｢サラダ記念日｣に匹敵するような若者に支持された歌集だったのではないだろうか。その後啄木は社会主義の研究などもしたが、肺結核を患い、２年後の１９１３年(明治４５年)２６才の時に妻や親友の若山牧水などに看取られながら亡くなった。死の２カ月後、友人たちの奔走で第２歌集[悲しき玩具]が刊行され、また同じ頃次女が生まれた。しかし妻節子は啄木の死の翌年、同じく結核で２人の子を残して２６才で亡くなっている。

　小生の手元に昭和２７年初版発行の「一握の砂・悲しき玩具」金田一京助編の新潮文庫がある。購入は昭和２８年正月と記してある。小生２０才の時である。その後何回か転居を繰り返したが、他の詩集や歌集は忘失してしまったがこの小冊子だけは残っていた。｢一握の砂」の序には｢この集を函館の宮崎郁雨君と同国の友金田一京助君に捧ぐ」とある。宮崎郁雨は函館で啄木を援助した人物である。また「１冊を亡児眞一に手向く」とある。この歌集を出版する直前、長男が生まれたが２０日余りの後亡くなったのである。(写真は新潮文庫本）

　最近、東南アジアでは啄木が望郷の歌人として高い評価を受け、広く愛されるようになっていると書かれたものを読んだ。急激な経済成長で中国やインドには故郷を離れて暮らす若者が大勢いて、それらの共感を呼ぶのだろうと書かれていた。

　小生の心に残る歌は｢砂山の砂に腹這い---｣「やはらかに柳あをめる---」「不来方（こずかた）のお城の草に寝転びて　空に吸はれし　十五の心」「かにかくに渋民村は恋しかり　おもひでの山　おもいでの川」｢わが恋をはじめて友にうち明けし　夜のことなど　思ひ出づる日｣などである。
　三陸からの旅の終わりに盛岡城跡公園に立ち寄り、東北有数といわれる石垣と共に、「不来方のお城の草に---」の歌碑及び新渡戸稲造の｢願はくは　われ太平洋の橋とならん｣の書碑が建っているのを見てきた。(写真は石垣２景、「不来方の---」の歌碑、案内板、新渡戸稲造の書碑）

(以下次号)

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