秋田5

'13 青森龍飛・秋田紀行 (５) 　秋田県立美術館

イバイチの
旅のつれづれ

　青森龍飛・秋田紀行
　　　（平成２５年１２月４日～１２月７日）
　③１２月７日

　　　秋田県立美術館―秋田駅―上野駅―
　　　水戸駅
　　　　　　　（徒歩、ＪＲ）
********************************************************
６．秋田県立美術館

 　翌１２月７日(土)は朝から雨だった。美術館の開館は午前１０時なので、その前に千秋公園を見ようとホテルに荷物を預けて出掛けた。千秋公園は秋田藩佐竹氏二十万石の居城「久保田城」があった所である。
　佐竹氏は常陸五十四万石の領主だったが、関ヶ原合戦の後、徳川氏は関東に有力大名が残ることを嫌い、出羽久保田（秋田）への転封を言い渡した。（写真は千秋公園入口にある久保田城跡碑、内堀と久保田城跡碑）

秋田藩初代藩主になる佐竹義宣（よしのぶ）は久保田城を築き、城下町の整備、院内銀山の開坑などにより秋田藩の基礎を築き、佐竹氏は明治の版籍奉還まで秋田藩主として存続した。

　明治以後、久保田城の本丸・二の丸跡地は千秋公園として整備され、日本さくら名所１００選の一つになっている。城の建物は明治１３年に大火により殆んど全焼したが、その後久保田城御隅櫓・本丸表門が復元されている。久保田城御隅には展望台があるが１２月から３月までは閉館されていて入ることは出来ない。　また旧秋田県立美術館である平野政吉美術館があったが、昨平成２５年６月に閉館し、７月から再開発された秋田市中心部にある「エリアなかいち」の中に新しい秋田県立美術館としてオープンした。(写真は復元された本丸表門）

　平野政吉美術館は秋田県有数の大地主で米穀商、質屋を営んでいた平野政吉（明治２８年(1895)～平成元年(１９８９)）が昭和９年（1984）にレオナルド・フジタ（藤田嗣治）と知り合い、昭和１１年から３年半度々秋田に招いて美術館建設と美術館を飾る壁画を制作する構想を伝え、藤田はそれに応じて昭和12年（1937）に高さ3.65m、幅20.5mの「秋田の行事」という壁画を制作したことから始まる。

　美術館建設は翌昭和13年に始まるが、戦時体制のために建設中止になり、壁画「秋田の行事」は制作現場の平野家の米蔵に保存された。その後昭和42年(1967)になって財団法人平野政吉美術館が開館し、壁画「秋田の行事」は制作から30年を経てやっと公開されたのである。(写真は平野政吉美術館、壁画「秋田の行事」）

　平野政吉は美術館に６０１点の作品を寄贈したが、そのうち藤田嗣治の作品は１０１点である。そのなかで「眠れる女」という作品は、藤田の４番目の妻、マドレーヌを描いた作品だが、昭和１１年にマドレーヌが東京で急死した時、経済的に困窮した藤田が平野政吉に売った作品で、平野コレクションの藤田作品の第１号になったものである。(写真はマドレーヌを描いた「眠れる女」）

　１０時丁度に美術館は開館した。本日（１２月７日）から２月２日まで藤田嗣治渡仏１００周年記念として「レオナール・フジタとパリ1913-1931」という特別展を開催するのである。この美術館は世界的に知られた建築家である安藤忠雄の設計で、１階が県民ギャラリー、２階が藤田嗣治大壁画ギャラリーで、壁画「秋田の行事」が常時展示してある。３階にはギャラリー１とギャラリー２があり、今回はその両方を使って藤田の作品４８点と同時代の画家の作品１５点が展示されている。(写真は千秋公園側からの秋田県立美術館外観）

　藤田嗣治（つぐはる）（明治１９年(1886)～昭和４３年(1968)）は大正２年(1913)、２６才の時フランスに渡りピカソ、ルソー、モディリアーニ、パスキンなどと交流を重ねた。第一次世界大戦の後のパリで独特の「乳白色の肌」「精緻な線描による陰影の表現」で透き通るような画風によって絶賛され、エコール・ド・パリを代表する画家として一世を風靡した。(写真は美術館入り口付近)

　藤田は昭和８年(1933)にマドレーヌと共に中南米から北米を廻って日本に帰国し、その頃平野政吉と知り合った。その後太平洋戦争で戦争画を描いた事が批判され、戦後パリに戻った藤田はフランス国籍を取得してレオナール・フジタとなり、日本に戻ること無くフランスで没した。(写真は「レオナール・フジタとパリ1913-1931」のチラシと入館券)

　藤田は日本の画壇では認められず、フランス画壇で世界のフジタと評価された。また戦争画についても「アッツ島玉砕」は藤田自身会心の作と言うほどの作品で、単なる戦意高揚の絵ではない。しかし戦争に協力した画壇の戦犯であるなどと非難されて日本の美術界には居場所が無かったのである。(写真はアッツ島玉砕の絵画）

　美術館２階の藤田嗣治大壁画ギャラリーには、広い空間に壁画「秋田の行事」が展示してあるだけで、左右前方は充分にゆとりがあり、落ち着いて眺められる。３階のギャラリーでは「栄光の時代―エコール・ド・パリの寵児」と名付けられたコーナーが、乳白色の裸婦像の作品などが並び充実していた。チラシに掲載されていたフォール美術館所蔵の美しい「裸婦」像やマドレーヌを描き、平野コレクション第１号になった「眠れる女」などがあったが、その中に水戸市にある茨城県近代美術館所蔵の「横たわる裸婦」も展示されており、懐かしく見入ってしまった。(写真はフォール美術館所蔵の「裸婦」、茨城県近代美術館所蔵の「横たわる裸婦」）

　時間の制約があり１１時５６分発の「こまち」に乗る。待ち時間に秋田駅のコンコースで記念にと男鹿半島から来たという「なまはげ」と一緒に写真を撮って貰った。秋田はまだ雨だったが盛岡に向かう新幹線の車窓からの風景は、すっかり雪景色に変わっていた。(写真は｢なまはげ｣と共に、車窓風景３景)
　
（この項終り）

(写真をクリックすると大きくなります)