鶴岡

イバイチの奥の細道漫遊紀行

[ 鶴岡 ]

H21-12-24作成　

　鶴岡は庄内酒井家１４万石の城下町だったところである。ここ庄内藩は政治の中心は鶴ヶ岡、商業の中心は酒田と別れていて、日本には珍しくアメリカのワシントンとニューヨークのような関係だった。芭蕉は出羽三山を巡った後、羽黒山南谷に更に３泊し、陽暦７月２６日に鶴ヶ岡に向かった。おくのほそ道には「羽黒を立て、鶴が岡の城下長山氏重行と云者のふ(武士)の家にむかえられて、俳諧一巻有。佐吉もともに送りぬ。」と非常に簡略して記している。「佐吉云々」は羽黒から佐吉が送ってきたの意味で、それを除くと鶴岡では長山氏の家に泊って歌仙を一巻完成させたということしか書いていない。曽良の旅日記によると「翁、持病不快」で歌仙を一時中止したそうで、体調が悪かったようである。

　羽黒山から県道４７号線の大鳥居を潜り羽黒街道を鶴岡に向かって車を走らせると、約３０分で芭蕉の句碑がある鶴岡市内の日枝神社に着く。日枝神社は当地方第一の古社と伝えられており、縁起によると慶長１６年（1611）最上出羽守義光朝臣が造営し、元和８年（1622）旧領主酒井家入国後、産土神社に指定され古くから「山王様」「お山王はん」として親しまれてきたという。元禄１１年(1698)以降日吉大神と称え、明治２年以降日枝神社と改称した。芭蕉の句碑は境内の右手にある小さな弁天島に建てられている。「珍らしや　山をいで羽の　初茄子び」　の句である。芭蕉は旧知の庄内藩士長山重行宅に３泊しているが、その時の句会で詠んだ句である。鶴岡には特産の民田（みんでん）茄子という極く小さな一口茄子があり、それを詠んだといわれる。

　日枝神社近くの車１台がやっと通れる狭い路地にその長山重行宅跡があり、同じ「初なすび」の句碑があった。こちらのは　「めづらしや　山をいで羽の　初なすび｣　となっている。どちらの句碑も庄内酒田藩主末裔の人の筆だそうである。

　庄内酒田藩の鶴ヶ岡城の本丸跡と二の丸跡が現在は鶴岡公園になっていて、旧藩主の庄内酒井家の藩祖を祀った庄内神社や、作曲家中田喜直が昭和２７年の冬に雪景色に覆われた鶴岡の情景をメロディにしたことを記念した「雪の降るまちを」の発想の地というモニュメントなどがある。更に大宝館というルネッサンス風の洒落たドームがある洋風建築で鶴岡が生んだ人物資料館になっている建物があるが、近くにある庄内藩校致道館ともども月曜休日のため入館できなかった。

　鶴岡公園に隣接して、庄内の歴史的建造物や文化財などを展示した致道博物館がある。ここは鶴ヶ岡城の三の丸にあたり庄内藩主御隠殿（隠居所）とその北側にある国指定名勝になっている酒井家庭園は当時のものである。小規模だが築山池泉に太い赤松をを配した立派な庭園で、昔は鳥海山が借景として眺められたそうである。

　庭園の前に見過ごしてしまいそうな小さな芭蕉句碑がある。これも「珍しや----」の句碑である。　博物館の中央の美術展覧会場で「近代庄内の文学探訪」として芭蕉と荻生徂徠関係の書画を展示していた。芭蕉の「出羽三山巡拝句短冊」 (写真のもの）　「さみだれを----発句短冊」、伝杉山杉風画「亡師芭蕉翁像」、奥の細道図屏風などが展示されていた。

　鶴岡は時代小説作家の藤沢周平の出身地である。氏の作品によく出る海坂藩は鶴岡がモデルになっていて実在の神社，仏閣らしき描写がたくさん出てくる。観光マップにもそのゆかりの地が２０ヶ所近く表示してある。「用心棒日月抄」「蝉しぐれ」「三屋清左衛門残日録」など、愛読した小説のゆかりの場所があるのだが、今回は時間が無く割愛した。　　 (H15-10-20訪)

　平成２０年、月山登山の後鶴岡に立寄り重要文化財の旧風間家住宅丙申堂を見学した。風間家は庄内藩の御用商人で当初呉服商だったが後日金融業を営んで鶴岡一の豪商になった。
明治２９年丙申の年に建造された住居兼店舗が残されている。屋根はこぶし大の４万個の石を敷き詰めた石置き屋根でその重さに耐えるよう三角形の梁を多用している

 また３つの座敷を貫いている１５メートルの長押は檜の一本材で造られ、通りと呼ばれる細長い土間には石畳が敷き詰められている。小座敷と呼ばれる客室は映画「蝉しぐれ」の最後の頃、主人公の牧文四郎と幼馴染の「ふく」が再会するシーンを撮ったところである。

　他に庄内藩校致道館、善宝寺も訪問予定だったが、海辺に世界一のくらげ水族館があるというのでそちらに行くことにした。湯野浜温泉近くにある市立加茂水族館である。小さな水族館だが２０種類のクラゲを常設展示しているのは世界でもここだけで、ＮＨＫからも放映されて有名になったそうである。普通の水クラゲの外にたこクラゲ、ベニクラゲ、おわんクラゲ、赤クラゲ、北上クラゲなど大小、色付き、透明などいろいろのクラゲが見られた。今回ノーベル賞を受賞した下村博士の研究にあった「おわんクラゲ」は小さな水槽に入っていたが、ノーベル賞受賞により大きな水槽に移し変えられたそうである。　 (H２０-７-３１訪)

注１）　写真をクリックすると大きくなります。
注２）　青字は「おくのほそ道」にある句です。
注３）　緑字は「おくのほそ道」の文章です。